昭和22年静岡県生まれ。
若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『新本陣殺人事件』が週刊文春の2001年の年間ベストミステリー第5位、『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が週刊文春2004年の年間ベストミステリー第9位にランクイン。
◉高田在子
朝日時代小説大賞など7つの新人賞で最終候補
◉高橋桐矢
小松左京賞最終候補
◉藤井龍(出水千春)
角川春樹小説賞最終候補
◉綾束乙
カクヨムWEBコンテスト恋愛部門特別賞、角川ビーンズ小説大賞WEB読者賞
◉雪銀海仁
漫画原作大賞読者賞(第2回)
◉あすみねね
『陰陽師と桜姫』
◉霞花怜
エブリスタ新星ファンタジーコンテスト・ハッピーエンドBL佳作、アルファポリス時代小説大賞奨励賞(第11回)、アルファポリスほっこりじんわり大賞奨励賞(第8回)
◉牧村圭(祝迫力)
歴史群像大賞(第20回)
◉山田剛
歴史群像大賞佳作(第17回)
◉風花千里
『幽』怪談文学賞長編賞佳作(第9回)
◉藤原葉子
『幽』怪談文学賞長編賞佳作(第4回)
◉笹木一加
『幸徳秋水の狐落とし 萬朝報怪異譚』
◉矢吹哲也
『生放送60時間 キボウノヒカリ誘拐事件』『闇を切り裂く誘拐者』
◉大森恵子
『ノートル・ダムの残照』『高校生が読んでいる武士道』
◉色石ひかる
『宝石神殿のすてきな日常』
◉夏野百合
『挑戦日本縦断殺人ミステリー あなたの頭脳が謎を解く』
◉継本まどか
『一度読めば忘れない記憶術』
◉桜庭輝人・りえ
『ミステリー大賞殺人事件 死体と死体と評論家』
◉藤宮弥生
『贋作名画殺人事件 美築豪邸 日当たり良好死体付き』
◉高桐遊
『沙場の虎穴 班超の刺客』『追憶の忍』
◉釣堀家宏一郎
『川中島異聞』
◉秋津野純
『天下一揆だやっちまえ』
◉美波明日華
『THE ROLLING GOLDEN APPLE』
◉和田飛翔
『評論家ポストを取り返せ』
◉水月彩人
『悲しみのマリアは暁を待つ』
◉扇子忠
日本文学館 自分史大賞(第4回)
そして僕が若桜木先生の門を叩いた(つもりでメール添削講座に申し込んだ)のは、初めて書いた小説で夢膨らませて応募した第24回の松本清張賞に、一次選考にも引っかからず落選したことを知った日でした。
――などという文章は悪文である。
そう教えてくれたのが、若桜木先生でした。
若桜木先生の指導を受けるきっかけは先の悪文の通りなのですが、僕の場合はとにかく文章の書き方、読みやすい構成をみっちりと指導されました。
一文中の動詞数は三個まで!
指示語、指示代名詞は避ける!
接続詞、とくに「そして」「しかし」は使わない!
回想シーンは入れない!
などなどの添削の書き込みで、提出した僕の原稿はいつも真っ赤になっていました。
文章のクセというのは身体化してしまっているためか、なかなか直しにくいものです。若桜木先生は僕が何度も繰り返す過ちを、淡々と、けれど必ず指摘してくれました。
添削の受け初めの頃は真っ赤だった原稿も、数カ月経つと赤い個所が少なくなり、成長をしみじみ感じたものでした。
また若桜木先生のご指導は、速度も大変ありがたかったです。
というのも、小説を書くとは地道で孤独な作業です。相談するにも相手がいません。言い換えれば、投げ出したくなるほど鬱々とした日々が続きます。
ですが若桜木先生の場合、夜更けに書いて出した原稿はたいてい、朝起きる時までには添削(真っ赤なのですが)して返してくれます。
朝、添削を確認する。昼は一日考えながら仕事をし、夜に書いて提出する。翌朝にまた添削を確認する。いつの間にか執筆のリズムが出来上がっていて、おかげで気持ちが折れることなく最後まで書くことができました。
落選した次の年の松本清張賞を受賞できたのは、様々な幸運が重なってのことと我ながら思います。ただ、その運をつかむところまで僕を引き上げてくれたのはメール添削でのご指導の数々です。これがなければ今の僕はなかったと強く思います。若桜木虔が育てた歴史時代作家は数多い。
僕自身、若桜木虔に指導を受けて第六回角川春樹小説賞を『私が愛したサムライの娘』で受賞し、二〇一四年にデビューした。同作では第三回野村胡堂文学賞も受賞できた。
本書を読めば、歴史時代小説を書く上でどうしても必要な、それでいて他書で見落とされがちな知識が身につく。新人賞を応募する方には得がたい参考書となるはずである。
さて、プロの歴史時代小説作家の中でも、時代考証のとらえ方には温度差がある。あえて考証を外す挑戦を重要なテーマと考えていらっしゃる先生方も何人も存在する。
かくいう僕も、「反射」や「自由」など、ことに地の文では現代語を用いる場合も少なくない。現代に生きる読者に作中の情景や情感などをビビッドに伝えたいからである。
ただ、新人賞を目指して歴史時代小説を書いている方は、こんな真似をしてはいけない。
著書『それ、時代ものにはNGです』でも触れられているが、ある知識を知っていて考証に従わないことと、知らないで考証ミスを犯すことは、まるで意味が違う。
仮に既受賞作が考証を外していたり、先行作家が考証を無視していたとしても、あなたが投稿した作品の選考過程でそれが通用するとは限らない。実際に、時代考証に非常に厳しい選考委員も存じ上げている。考証の勉強はしっかり積み上げてゆかねばならない。
さて、本書の後半「江戸の吉原NG」は、読みながらうなり声を上げっ放しだった。
本書の吉原世界の解説はピカイチだと思う。専門書は措くとして、このジャンルでは他書に類を見ないレベルだと断言してもいい。史実がどうであったか、はわかっても、なぜそうであったかに触れていない概説書が多いのである。
初回、裏を返す、馴染みになる……。吉原で高級遊女と同衾するために三回の登楼を必要とした史実は、古典落語でもよく描かれている。たとえばこのしきたりも、きわめてプラグマティックな理由から生まれてきたと、本書は謎解きをしてくれる。
ここだけの話だが、僕も吉原が登場する作品を書きたくて勉強中なのである。本書はライバル作家にはあまり読んで欲しくない。
あなたが、歴史時代小説を書いていらっしゃるのであれば、間違いなくラッキーだと思うのである。本書は必ずや、執筆の大きな糧となることだろう。